「仕事よりプライベート優先」の会社員が増えたのはなぜか〈後編〉【宮台真司】
「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第4回〉
■社会に適応すると性愛が空洞化
こうした経緯を見ると、⑴女子の性的過剰の回避と⑵男子のリアル過剰の回避と⑶オタクの蘊蓄過剰の回避の、シンクロが偶然でないことが分かります。共通して「何事につけ過剰さがコミュニケーションを困難にする」との意識ゆえの〈過剰さというイタさの回避〉があります。
これだけ流動性が高く多元的になった社会では、「深くコミットする」「相手の中に入る」といった営みはリスキーです。逆に言えば、過剰さを回避しないと、人間関係を安定的に維持できなくなります。そうした社会状況への適応のために、浅く表層的に戯れようとするのでしょう。
ところが、近代の性的領域においては、「偶然を必然に変換すること」あるいは「内在に超越を見ること」で、タダの女(男)を運命の相手と見做します。この作法が、ドイツ流の民族ロマン主義に対するフランス流の性愛ロマン主義で、それが近代の家族形成原理になったんです。
近代社会では、性愛と国家の両領域で、ロマン主義を必要としてきました。普通の女(男)を運命の相手と見做すことで家族形成が可能になり、ただの集団を崇高なる故郷と見做すことで国民国家形成が可能になるからです。両者は並行して19世紀に育て上げられました。
「ただの女(男)を運命の相手と見做すことは如何に可能か」。18世紀末以来のフランス恋愛文学における基本的問題設定です。回答として見出されてきたのは、相手の心に映るものを自分の心に映すこと、そしてそれを前提に時間をかけて苦難に満ちた関係の履歴を積み上げること。
そう。表層的な戯れの延長上に、必然的な関係なんかできるはずもないんです。「諦めて世間に従っている」のではダメです。互いに相手の心に深くダイブする者たちだけが、性愛を通じて絆を作り、それをベースに家族を形成し、ホームベースを作ってきました。
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CONTENTS
はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か
第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか
——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観
◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと
◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは
◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは
◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ
◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは
第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは
———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪
◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか
◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは
◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは
◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!?
◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか
◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について
◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは
第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか
———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ
◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか
◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは
◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか
◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは
◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは
◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か
第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために
———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか
◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか
◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか
◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか
◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか
◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか
◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか
◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか
以上「目次」より
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